戦略

mitsubisi i

Motor Fan illustratedという雑誌がある。最新の自動車に関する技術動向や社会情勢に関して、鋭く深く突っ込んだ内容の雑誌である。カラーのイラストもありとてもわかりやすく…と言いたいところではあるが、組み合わされている文章は文字が小さく、かつ専門性の高い内容のため、万人向けとは言いがたい。クルマが趣味の兄弟に「まるで教科書みたい」「あ、変態雑誌」などと言われる程である。

そんな雑誌であるが、クルマに関して変態的な興味を持つ私は毎号購入している。さすがにすべての記事を読める訳ではないが、もの作りに対する姿勢に関して、また社会情勢に関して大変勉強になっている。

そんなMotor Fan illustratedの最新号で取り上げられたのが「GERMAN Engine」(副題(邦題)が「ユニーク・エンジンに見るドイツの技術」)である。まあ、変わったドイツ製のエンジンが取り上げられているワケだが、その中でも多数のエンジンを取り上げられたのがVWフォルクスワーゲン)グループである。

そのVWグループの中で近年恐ろしくなる程素晴らしいのはTSIエンジン+ツインクラッチDSGの導入、その一連の流れである。まず初めにターボチャージャースーパーチャージャーを組み合わせた高性能版TSIをツインクラッチDSGと組み合わせを導入し高性能なイメージを確立。さらに続々と改良版と普及版等のバリエーションを段階的に追加導入していった。

導入されたメカニズムが達成するのは排気量を小さくしながらもパフォーマンスを維持・向上させる“ダウンサイジング”である。これらが我慢するものではなく、よりエコなもの(地球にも自分の財布にも良いもの)だと認識させ、普及した。恐らく他の欧州メーカーも追従するであろう、ダウンサイジングの考え方を見事にユーザーへも定着させたのである。

そして、TSIを生み出したのは突然のすごい技術革新では無く、ターボ・スーパーチャージャーや(日本メーカーはすぐに亡き者にした)筒内直噴などすでに熟成された技術の応用である。それを実現させたのは、時にじっくりと技術を熟成させ、時に古い技術を切り捨てる、思い切りの良い戦略であろう(計画的とも言えるが非常に攻めの姿勢を感じるので戦略と表記する)。

エンジンは開発・生産に掛かるコストが非常に高く、2〜3世代も同じ基本設計で使われることが多い。細かな改良は重ねられるが、基本的な素性は10年から長ければ20年以上、変えられないことになる。そのため、綿密に練られた戦略が無ければTSIの普及・定着はあり得ない。

そんなワケで、日本メーカーには戦略を持ってエンジン(に限らず)開発を行ってもらいたいのだが、同誌の別の記事で日産の偉い人がビミョーなコトを言っているので大変心配なワタクシです。あ、自分の仕事やキャリアにも戦略が必要ダネ!(ダネじゃねぇ)

(写真は私の愛車、三菱 i (アイ)。ターボで加給されるエンジンは非常に素直で扱いやすく、素晴らしい。ちなみに同じ基本設計のターボなし1L版エンジンが現行世代のメルセデス製スマートに搭載されている。コレもまた、エンジン戦略の一つである。)

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